2020/3/31

小売店の多言語対応で訪日旅行客を呼び込む墨田区の取り組み

通常の売上げにオンするインバウンド消費は貴重だ。その売上げの確保には、自店の訪日旅行客への対応を見直して、着実に準備を進めていくことが今、求められている。
今回、インバウンド対応の事例として、地道に対策を進めてきた東京都墨田区の取り組みを紹介する。

東京スカイツリー開業でインバウンドが急増

墨田区は多くの観光資源を持つが、これまでは観光にあまり重きを置いておらず、外国人客も少なかった。
その状況を一変させたのが、2012年の東京スカイツリーの開業だ。
これによって急増した訪日旅行客に街の人たちは戸惑い、区役所にどう対応すれば良いのか分からないという相談が寄せられるようになった。
墨田区産業観光部産業振興課の大木徹主査はこう話す。

「スカイツリーが観光名所になって、街に訪日旅行客が増えた。区内の小売店や飲食店を訪れる機会も多くなったが、墨田区の店は長年、地元の人たちを相手に商売をしてきたため、外国人客に慣れていない。どう接客したら良いのか分からないという声が多く挙がったため、行政として支援が必要だと考えて取り組みを開始した」。

最初に行ったのが「英語メニュー」の作成支援。各店舗のメニューや主な取扱商品を英語で説明するもので、区が費用を全額負担して作成する取り組みだ。2015、16年度に予算を組んで90店舗を上限に募集したが、当初は思ったほどの応募がなく、区から店舗への声掛けをするなどして、ようやく支援を受ける店舗が増加したという。

同時に、訪日旅行客が安心して来店できる店舗を紹介する『Oishii Sumida Tokyo』という英語のWebサイトも立ち上げた。さらに、日本在住の外国人がグルメや観光地情報を英語で紹介する冊子も作った。
導入した店舗からは、「自信を持って接客できるようになった」「サイトや冊子を見て、来店する外国人の方が増えた」といった声が聞かれ、確かな手応えが得られたという。

免税店化は、訪日旅行客に慣れていない小売店の「意識改革」が課題

だが未だに訪日旅行客の受け入れに消極的な店も少なくない。そうした店は、外国人が店に入ってくると、言葉が通じないので困る、怖いという感情が先立ち、固まってしまう。

「外国人からすれば、日本人には愛想が良いのに、自分たちには素っ気なく見えて歓迎されてないという印象を与えてしまう。しかし、こういったお店の人も何らかの形でコミュニケーションが取れると、心を開きフレンドリーになる。いわゆる“ツンデレ”。」と大木主査は話す。

こうした状況なので、区内の店舗の多くが訪日旅行客などに消費税を免除して商品を販売する「免税店」化に積極的ではないのも事実だ。「商業振興の観点から、免税店を増やしたいが、大型店やチェーン店を除く個人店の免税店化は進んでいない。商店街も飲食店が多く、規模が小さいところがほとんどで、免税カウンターを設置するのも難しい」と大木主査。

現在、区として免税店化を希望する店舗の相談に乗るなど支援も行っている。免税店化により、訪日旅行客の取り込みに成功した地元のカバン店もあるなど、成功事例も少しずつではあるが、生まれている。

担当者は「隅田川を挟んだ浅草(台東区)は観光客慣れしているが、墨田区は日本人の観光客に対してすら慣れていないのが実情。いきなり訪日旅行客への対応は難しいが、少しずつ啓発していければ」と、小売店の「意識改革」の必要性を強調する。

そのため、日本と異なる習慣やルールなどに戸惑わないよう、東京都が作成した各国のお国柄や宗教上の忌避事項などを記した『インバウンド対応 ガイドブック』などを配布。その他、接客に関するセミナーやフォーラムも開催している。

ピクトグラム表示キット「ウェルカムボード」のデザイン

また、共通デザインのボードにその店の情報をピクトグラムで表示する、ウェルカムボードも作成済み。担当者は「掲示している店は、インバウンドを歓迎する店の証になる。現状では掲出店が50店舗、夏までに200店舗が目標」と話し、区内店舗のさらなる「意識改革」を目指すとしている。

「訪日旅行客へさらなるアピールを」墨田区の取り組み

免税店を増やすためにも重要になってくるのが、訪日旅行客の来訪を区内全域に広げることだ。「現在、外国人観光客はスカイツリーや両国国技館近辺に集中しているが、区内には多くの神社仏閣、公園、美術館や博物館、伝統を継承するモノ作りの工房が点在している。花火、お祭りなどのイベントも多い。これらをもっとアピールしたい」と大木主査。

そのため、英語で表記した墨田区全体の観光ガイドブックや、多言語対応のエリア別マップを観光案内所などで配布したり、スマートフォンでマップを表示できるようにしたりという取り組みもしている。

また、東京スカイツリーの前を流れる北十間川沿いに新たな回遊ルートや、隅田川にかかる東武鉄道の鉄橋には遊歩道も整備中で、4月にはオープン予定だ。秋には、複合施設『両国リバーセンター』が完成。

着々とインバウンド対応が進んでいるが、全ての訪日旅行客を取り込もうという考えはない。「バスで乗りつけて短時間で移動する団体客より、街歩きを楽しむ個人客やバックパッカーに絞って呼び込みたい。そうすることで、街の人たちも訪日旅行客になじみ、商店の意識も変わっていくと思う」と大木主査は説明する。

このように訪日旅行客の受け入れ態勢の強化を進める墨田区では、多言語対応などのサポートに力を入れている。人口減少が進み、国内消費だけでは、従来の売上げが見込めなくなる可能性もある中、区内の個人店の免税店化を推し進め、訪日旅行客を取り込んでいく動きは、今後さらに重要になってくる。